北の3兄弟 (エッセイ)

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「ほんまに、もうっ おもろないっ。」

一月近い北海道ツーリングも終盤。僕は体も心も、もやがかかったように塞ぎ込んでいた。

あれは大学3年の夏やから、80年代初頭。

気楽な学生生活、必死でバイトして稼いで、あこがれの北海道ツーリングに出た。

5,6人の友人とばらばらに出発して、途中でくっついたり離れたりしながら約1周。

当然北海道ツーリングは右回りか左周り。

フェリーが多いので関西人は小樽、関東は釧路か苫小牧を起点に回るので、そのあたりは旅も終わりのヤツとこれからのヤツが入り交じる。

そして知床や礼文、利尻といったあたりで旅はピークを向かえ旅人ははじける。

僕は根室で一人でいる時出会った女の子2人づれ2組、男3人づれと僕4、4で仲良くなり旅を続けた。いずれも学生。

バイクと汽車に分かれての旅。笑いにつつまれた夢のような時間だった。

勝手に恋の予感を残しつつ、別れ別れになった。

僕は抜け殻のようになり、何もおもしろくなかった。早く帰って、又みんなと再開したい思いと、お互い学祭で会おうと交わした言葉が支えで旅をしていた。

そしてこの宿。さっきから真ん中ではしゃいでるヤツら。それは先日までの自分か?

もうすぐ、このバンナダとんぼめがねがギター持って、岬めぐりか落陽やるか、いや横の小太りロン毛が怪談始めるか、そんなとこだろう。

「あーあ、明日は札幌で静かなビジネスホテル泊まって、小樽から帰ろう」

場はにぎやかに旅の伝説で盛り上がっている。いずれも聞いたことある話ばかりだ。

一人で酒のんでる僕に突然「ねえねえ、大阪の彼 こんなん知ってる?」とバンナダとんぼめがね。なれなれしいいけどまあいいか「何?」

「ピースサイン出すと、こんなん返ってくるライダー」彼は身振り手振りで、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンエースの3兄弟の光線のポーズを真似た。

「シュワッチッ!3台のバイク見ませんでした?」 ふーんそれは初めて聞く話やなあ。

「ごめん、しらんわ」 よう作りよったなあ。僕は早々に寝て、朝一で宿を出た。

これがホームシックか? 待ってる彼女もおらんくせに誰か待ってるような気持ち。

札幌に向かって走っていると、3台のバイクが来た。「まさか」と思ってピースサイン出すと、見事な呼吸で「シュワッチッ!」 あまりの見事さに僕は一瞬息が止まった後、思いっきり笑った。メットの中でゲラゲラ笑っていたら、いつのまにか涙があふれてきて泣いていた。

何故泣いているのかわからず、バイクを停めてボッーとしていたらどんどん気持ちが晴れていく。

「もう少しだけ旅を続けようか」地図を見て、町への道をそれて走りだした。

そこには北海道に上陸した頃の青い空と大地が広がっている。この何日か見えていなかった空。

そして、前、何も走っていない、走って来ない。バックミラー 何も追いついて来ない。2サイクルの白い煙が2本伸びているだけ。左右、誰もいない。畑、草原?

僕は一人で

「いくで、 せーの  シュワッチッ!」

おわり

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大阪 京都間

2年前やったか、春まだ早い3月中頃の夜。
バイク仲間でもある旧友から「早春の若狭へツーリングに行こう。」と電話があった。
まだちょっと寒いけど、ぼちぼち走りたくなってた頃。
二つ返事で「よっしゃ 行こか。」すると彼が「ほな、うちおいでーや。一緒に朝飯しょーけ。」と言ってきた。

大阪から若狭方面行くのに京都寄るのは、かなりめんどくさい。しかも彼の営む肉料理屋は祇園のど真ん中だ。
でも、商売もんを使ったいつものローストビーフのサンドウィッチと彼の入れるコーヒーは絶品だ。
断る理由もない。 「わかった、行く」

名神高速 吹田IC 大都会大阪の北の玄関。思えば長旅の始まりと終わりはいつもここやった。
ずらっーと並んだゲートの右端のETC専用ゲートを目指した時。
「あっ!」左の方の一般ゲートにちらっと見えたバイク。多分僕のと一緒や。

ここから入って、西宮方面に行く車両はほとんど無い。
やはり京都方面のレーンに入って来た。「おっ、色まで一緒やんか。」
僕は後ろに着いた。沼津ナンバーか。
このバイク、生産中止から20年近く経ってもまだまだ見かけるが、このカラーは87年式だけらしい。
しかもこの年はこの色だけだ。
もしかしたらドイツで生産された時も並んでいたかも知れない。

本線に入って併走してみた。「ふーん こう見えるのか。」むこうもこっちを見てお互いに会釈。ヘルメットの中でにこやかに笑う彼は50代半ばか。
軽装なところを見ると、ツーリングいうほどじゃないな。この春から、関西の大学に入る我が子の部屋を見にくるという理由で一人で走って来たと言うところか。 なんだか嬉しそうに走っている。

茨木IC
今度は後ろに着きはった。ミラーでみるとなるほどバイク仲間達が言ってた事がよくわかる。
「だっちゅーの乗りはきしょい。」古いギャグや「カウルの中で芋の皮むいてるの?」等。
大きいカウルにむりやりハンドルを入れてしまう、このメーカーにしたら珍しくデザイン重視のスタイル。
よし、もう一回後ろに着こう。横からじろじろ。きれいに乗ってはるなー。
「遅いのに、早く走ってるように見える。」これもわかる。デザイナーの勝利か。
斜め後ろ。「人間魚雷にもぐりこんでる。」なるほど、みんなうまい事言うなー。

高槻バス停
「沼津の兄い、ここから山の方に行くと、摂津峡いう小さいけどきれいなとこがあんねん。僕らのような古いバイクでトコトコ走るにはええとこやで。」
知らず知らず僕は彼に語りかけていた。
「この左手がサントリーの醸造所、名酒山崎はここで作ってんねん。」

そや、桂川SAに入ろうか。いい話聞けるかも。コーヒー飲む手真似してウインカー出したらついて来てくれるかな。
でも高速乗ったとこやし。僕は京都南でおりるし。どうしよう。
後1km どうしよう 500m すぎちゃった。
まあいいか。桂川を渡り出口近く、ウインカーを出し左車線から出口レーンへ。
並んだ彼もいくらか減速して手を振っている。僕も手を振って出口へ。
「お気を付けて、又どこかで。」彼もミラーの中に消えていく僕につぶやいているはず。
「お気を付けて。」

週末の夜の余韻が残る祇園のけだるい朝。
うまいコーヒーをだまって飲んでいる僕に「で、どう調子は?」旧車を気づかって友はいつも聞いてくれる。
ぼっーとしてた僕は「うん、楽しかったで。」
「何言うてんねん、ツーリングはこれからやで。」

おわり


今、大阪京都間は、新しい高速が出来た。もう吹田から乗る事はあんまり無いだろう
河内平野を防音壁に囲まれた道が一直線に伸びている。確かに早い、便利になった。
でも、味気無いと思っていた高速道路も昔の道は、谷を渡り、山をくりぬき、丘を廻りずいぶん味わい深かったもんだ。たまには乗ろう。

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